2021 -works
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Photo by 水津拓海
《次にくる日のための一 (One for coming days)》 2021 年
群馬県から山口県まで持ち歩かれた木材、インクジェットプリント、 メモ、ビデオ 10 分、道中に持ち歩かれたもの
2021 年 7 月グループ展 「群馬青年ビエンナーレ 2021」群馬県立近代美術館
※群馬県立近代美術館収蔵作品
群馬県立近代美術館から南に 2km ほど離れた団地で、私は 20 年近い時間を過ごした。ひととこ ろにいると居心地は良いが、土地が自分にとっての足枷になってくる。私はどこへもいけないのでは ないか、という焦燥感からの脱却を切望していた。
2016 年から「12 フィートの木材を持ってあるく」というプロジェクトを始めた。ホームセンター へ行き、自分 1 人で持ち歩けるぎりぎりの長さや重さの素材として、12 フィート材が目に留まった。 持ち歩き始めてすぐに後悔した。疲労とともに体感の重さが倍になる。その扱いにくさゆえに様々な エラーを引き起こす。
12 フィートの木材は移動の際に引きずられ、削れていく。時間をかけて移動した分だけ木材は目 に見えなくなっていく。代わりに、いつどこで使えるのか分からない経験値が増えていく。道中で声 をかけてくれた人たちと対話し、記録写真を撮影してもらった。 群馬県を出発し、山口県にたどり着いた。気づけば 1490mm 削れていた。自分の足で外に出るこ とは案外簡単だったのかもしれない。








Photo by 水津拓海
《かたちのない手ざわり/接地面をなぞる》 2021年
12フィートの木材、12台のモニターにビデオ、インクジェットプリント、メモ
2021年8月グループ展 「TURNフェス6」東京都美術館
山本の主な活動のひとつである「12フィートの木材を持ってあるく」は、2016年から開始した移動を前提とするプロジェクトである。新型コロナウイルス流行によって、「移動すること」は世界的に制限させざるを得ない状況下に置かれている。多くの人々に精神的・物理的な制限がかかるなかで、変容した世の中と自身の生身のリアリティを探る方法として、2020年の夏に東京都港区を130km歩いた。その様子を撮影したビデオや日記、実際に歩くときに使用した木材を中心に展示する。ビデオは編集をせず、歩いた全ての時間を12日間分同時に流す。 本来想定していた2020年が来ていたとしたら、私は九州に住んでいて、オリンピックに沸き立つ東京の地を歩くことはなかっただろう。しかし、新型コロナウイルスが存在しなかった時でさえ「想定していた未来」というものは訪れていたのだろうか。その状況時々で、エラーが起き、それを肌で感じながら、自分で選択した道を進んでいくのではないだろうか。私はこの状況下の2020年夏に東京都を歩く必要があると考えた。 移動の手間を省いて膨大な情報に触れることのできるデジタル社会で、なおかつ移動に制限のかかる情勢においても、変わらず季節はめぐり、時間は経過する。木材を持って歩いた膨大な映像の一部始終に鑑賞者が立ち会うことは、夏は暑い、セミの声が聞こえる、木を引きずる音、といった極めてシンプルな生身の時間と激動の一年に想いを馳せる機会になることを期待している。コロナ以降、一見すると人と距離を保つ道具に見える長い木材を通じて、通りがかりの人たちと山本が小さな絆を育む場面がある。それは今もなお、抑圧された移動の緊張感や懸念と裏腹に、「生きること」と「出会うこと」のリアリティが立ち上がってくる。
※2020年制作の《Where Are We Going?》をブラッシュアップ、拡張した作品。



